FC2ブログ

ドラクエ8 短編小説集

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ 未分類 □

夜光杯 (マルチェロオンリー)

多分同人誌として出した作品。珍しくマルチェロが主人公、マルチェロしか出てこない、マルチェロ好きさんのためのお話



葡萄美酒夜光杯,
欲飮琵琶馬上催。
醉臥沙場君莫笑,
古來征戰幾人回

葡萄酒を夜光杯に満たす
飲もうとすると、弦楽器が馬上でかき鳴らされる
酔いつぶれて砂の上に倒れても笑わないでおくれ
いったい何人が戦場から家へかえれるのだろうか

砂で出来た地平線へ巨大な太陽が没しようとしている。
この世を照らし続けた最後の光が、砂を、空を、野営する兵士たちを
そして聳え立つ城壁を染め上げる 赤く、赤く。血の色に
「不吉な」
テントというには立派過ぎる野営用天幕から、従者を引き連れて
現れた老人は、口ひげを震わせながらつぶやく
くれないに染まった純白の法衣が風にゆれ、首から提げた
三股の鉾をかたどった純金の聖具が夕日を美しくも不吉に反射する
それは、老人が高位の聖職者であることのあかしだった
「それは、あそこに立てこもる背徳者たちにとってでありましょう」
「そうですとも、背徳者たちへの神の怒りの現れです」
老人を安心させる言葉を次々に口にする従者たち
だが、只一人だけ無言のままのものがいる。
一堂の中で最も若く、軽装ではあるが鎧をまとい、装飾が施されてはいるが
実戦用の剣を腰に佩いている。
それは彼が、-神に仕える聖職者でありながら、神に背くものに剣を向けるもの-
聖堂騎士団の一員であることを示していた。
「マルチェロよ、背教者たちの動きはいかん?」
老人に言われて、黙っていた従者―マルチェロは固く結んでいた口をやっとひらいた
深い深い緑色の瞳に聖職者というには強すぎる光をたたえて老人のしわだらけの顔を
みつめ、只一言
「かわりありません。司教さま」
と言うと、老人―司教、はため息をついた。マルチェロはなおも老人を見つめる。
視線に温度というものがあったのなら、半分干からびたような老人は発火してしまうだろう。
だが、司教は顔色一つ変えずに
「祈るとしよう。彼らが真の信仰に目覚め、我々の前に城門を開いてくれることを」
と不明瞭な口調で言った。
従者たちはうなずき、司教に習って砂の上に跪く。
それを見て、マルチェロは深く一礼する。
日が落ちる。風が吹く。砂が舞う。
ゆえに、彼のつぶやきは砂以外に届くことはなかった
「この、無能者達め・・・・・」

夜半、マルチェロは一人、彼方に聳え立つ城壁を見つめていた。
空には満月がうかび、そのお陰で火がなくても 白くそそり立つ城壁は
はっきりと見ることが出来る
「30日・・・・・」
皮手袋に包まれた指を一本一本折っていく
昼間の灼熱がうそのような冷気に縮まった皮は
キュっキュと小さな音を立てた。
「千の兵士であの小さな山城を30日かかっても落とせんとは」
つぶやいて奥歯をきつくかみ締める。
「無能どもめ」
声は少し大きくなった。夜更けのことゆえ聞くものはいない。
その思いが、いつもは硬く閉ざしている彼の本心の扉を少しだけ押し広げた。
「力が欲しい」
目の高さまで持ち上げた手を開き、再びにぎりしめる。
マルチェロの手の中で城はつぶれた。ようにみえた。
くつくつと喉の奥から笑いがこみ上げてくる
このような子供だましをしてなんになる。
現実の自分は、法皇のおわすサヴェッラ大聖堂から遠く離れた場所にある
マイエラ修道院に付随する聖堂騎士団長でしかない。
50人の先鋭を率いてこの戦いに参加したが
戦場での指揮権はないに等しかった。
「おや、マルチェロ殿ではないですか」
不意に後ろから聞えた声に、マルチェロは驚いた。
深夜に近い時刻ゆえ、遠くに立つ歩哨の兵士以外は眠っていると思い込んでいたのだ。
ふりかえれば、彼とそうかわらない年の青年がふらりとたっている。
明るい茶色の髪と瞳。身長はマルチェロとほぼ同じだが、体は一回り細い。
左手には緑色のビンをぶら下げていて、その口を時折自分の口と
密着させていた。においからするとワインのようだ。
防寒のために羽織っているであろうマントがかなり着崩れている所を見ると
大分出来上がっているらしい。
今の独り言を聞かれたのかと、内心ひやりとしたのだが、これなら大丈夫そうだ
と、マルチェロは安堵した。無論顔は穏やかな笑顔はまったく崩していない。
それにしてもこの男は誰だろう。顔に見覚えはまったくない。
視線を下へと移していき、マントを留めている金具でとまった。
三又の鉾が描かれているのは、教会に属するものとして共通だが
その色が金色だ。それが意味するものは一つ、
この男がザヴィエッラ大聖堂付随の聖堂騎士団の一員だ、ということだ。
「いやだなあ、怖い顔しないでくださいよ」
酔っているからか、もともとの性格なのか、男はへらへらと笑いながら
さらに近づいてくる。
マルチェロは笑顔のまま、さりげなく後ずさりをしながら、剣の柄の上に手を置いた。
ここに味方などいない。いるのは今の敵と未来の敵。
「俺はマルチェロ殿を尊敬しているんですから」
「尊敬?法王直属の聖堂騎士団員殿が何をおっしゃいます。
わたしなど、地方の騎士団員をたばねているにすぎません」
あくまで穏やかに、マルチェロは返答する。
青年はワインのビンから口を離し、照れたように笑った。
「ああ、俺はエイゼルです。サヴェッラ聖堂騎士団員といっても
平ですから。マルチェロ殿のほうがずっと偉いですよ。
噂は聞いてます。歴代の団長の中で最も若いとか。
・ ・・・・しかも・・・」
「出自は土豪に近い貴族の、しかも庶子に過ぎないのに。」
マルチェロの言葉に、エイゼルは一瞬罰の悪そうな顔をし、だがすぐに
またへらへらと笑いながら口を開いた
「やだなあ。俺はそんなことは思ってないです。騎士は生まれより
腕ですからね。で、強いんでしょう。実際」
マルチェロは応えず、ただ首を振った。教会という世界で言葉を額面どうり
受け取るのは愚かもののすること。発言の裏の裏まで考えて応える、
真意が読めない時は何も言わない。これが鉄則だ。
エイゼルはさらに罰の悪そうな顔をして、やはりひょろりとした指で
背中までありそうな長髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
その姿は叱られた子供のようで、マルチェロはほんの少しだけ警戒を緩めた。
刺客にしては、隙がありすぎる。
「私が団長の地位につけたのは皆様の出自に足元にも及ばないからこそ、死に物狂いで
研鑽を積んだ結果、かもしれません」
その言葉にエイゼルが「やっぱりすごい人だなあ、マルチェロ殿は」と
感心したように答えた。
「ところで、こんな時間に何をしているんですか」
「いえ、眠れなかっただけです。あの城を攻め始めてはや一月、なかなか手ごわい。
と思いましてね」
そうですねえ、とエイゼルも白々と輝く城壁を見つめてため息をついた。
 二人は城、城といっているが、正式に言うならばあの建物は
セント・アドキニス・ロイド・マヌエル・サン・サーク修道院という。
もっとも付近の住人たちはそんな長ったらしい名前はいちいち呼ばずに
単に砂漠の教会と呼んでいたらしい。
この修道院はその土地を治める領主の隠居所もかねていて
代々家督を譲った領主が出家し修道院長をつとめ、サヴェッラ大聖堂へも
かなりの寄付をし、自らの騎士団も抱え、それなりの規模と権勢を誇ってきた。
ところが、半年前のこと、ある訴えがザヴェッラ大聖堂へ持ち込まれた。
修道院の院長が亡くなり、領主の一族から新たな院長を選ぶことになった。
慣例にしたがえば、今まで領主だったものが家督を譲って院長の座に着くべきなのだが
今の領主は40代前半で、その息子はまだ幼く、とても家督を譲れる状態ではなく、
そこで名乗りを上げたのが領主のおじに当たる人物2人だった。
お互いに一歩もゆずらないため、親族間では話し合いがつかず、教会に
判断をゆだねたのだ。教会は双方の努力と言う言葉のもとに散々寄付を要求し
最終的に 修道院の所有地を半分ザヴィエッラ修道院の直轄地にするという
約束をした男の方を院長にするという判断を下した。
普通はこれで終りになる話である。ところが 敗れた男のほうがそれに納得せず
騎士団を味方につけ、新院長を殺害後修道院に立てこもるという暴挙に出た。
要求は2つ 自分を新院長としてみとめること、そして所有地譲渡の約束の無効。
慌てたのはザヴィエッラ大聖堂である。
世界中の教会はザヴェッラ大聖堂を頂点として一糸乱れぬ統率をとり、秩序をたもってきた
内乱など絶対に許すまじ。
教会はザヴェッラ大聖堂とマイエラ修道院を始とする聖堂騎士団をただちに
さしむけた。
立てこもっている人数はせいぜい100人。1週間で片がつく。と思われていたのだが
実際は一ヶ月たっても修道院の城壁に針の穴すら開けることができないでいる。
「砂漠、周りをうろつくモンスター。条件が悪すぎますよ」
エイゼルはそう言ってまたワインに口をつけた。
そう、一般に篭城戦は逃げ場がなく、水、食料も有限であるから、
取り囲んでいればいつかは敵は根を上げる。
その時の最後の攻撃さえ耐え切れれば勝てるのだ。
だが、今回は砂漠という厳しい自然条件の上、この近くにある竜の墓場である竜骨の迷宮に
死に場所をもとめてやってくる竜までうろついているので、敵と戦うことなく騎士団員たちは
負傷し、疲弊している。
一方篭城している方は、城壁のそばで最低限の攻撃をしかけつつ
豊富な食料と城内に湧き水の出る井戸を抱え、こちらが根を上げるのを待っている。
死にきたとはいえ、鋭い牙とつめ、そして荒い気性をもつ竜も、あの城壁は壊せないようだ
そしてなにより、彼らはこの砂漠になれている。
「どちらが篭城しているかわかりませんな」
と、マルチェロは苦笑を浮かべた。
「そうですねえ、また無能だからな。うちの団長は」
「エイゼル殿。酔っているとはいえ言葉が過ぎますぞ」
マルチェロの静かだが鋭い叱咤にエイゼルは、またあたまをかいてへらへらと笑った
「あれ、マルチェロ殿は思いませんか?団長同士の会議に出席していらっしゃるから
さぞかし歯噛みしているだろう。とおもっていたんですが」
「夜中とはいえ、過ぎたる飲酒は規則違反です。私も休みますから
エイゼル殿も戻られたほうがいい」
強引に会話を打ち切ってマルチェロはきびすを返した。
その後姿をじっとみおくりながら、エイゼルはもういちど酒瓶をくちにつける。
それを話したとき、彼の顔から笑いだけが消えていた


「立てこもるものたちよ、神の代理人として告ぐ。
汝らの行いは神に対する背徳である。
行き着く先は業火が燃え盛る煉獄のみ。
門を開け、武器を捨てよ。さすれば神の慈悲が
そなたたちに与えられるだろう」
蜃気楼さえうかぶ灼熱の空気の中を
聖歌で鍛えた声が朗々と響き渡る
30日間毎日繰り返される勧告。
だが、それに答えるものはいない。
ただ風だけがごうごうとなり、砂を巻き上げ、彼方にある城壁をかすませる
これもまた、30日間繰り返されたことだ。
・・・・・なんたる茶番だ・・・・・・
高温と暴風にいきり立つ馬をなだめながら、マルチェロは
先頭にたって勧告をくりかえす男をにらみつけた。
灼熱の砂漠だというのに、装飾過剰な甲冑を着込み、
その上から高位の聖職者の証しでもある白いマントを羽織って
三又の鉾が浮き彫りになった黄金の留め金でとめている。
ザヴェッラ大聖堂聖堂騎士団団長。今回の内乱、もとい
信者たちの乱心を制圧する司令官でもあるのだが、
脳みその代わりにおがくずでもつまっているのではないかと
疑いたくなるほど、作戦というにもおこがましい
勧告と突撃を命じるだけであった。
手綱を掴む皮手袋が悲鳴を上げる。
それは、身分などないはずの教会の中で、
上官の命令には異議となえることが許されないという
軍隊の規則に従わねばならない、という矛盾への
苛立ちの表れ。
「見ての通りだ諸君。背徳者どもは今日も勧告に応じようとはしない。
こうなれば、今日こそあの分厚い城壁から、やつらを引き出し、正当なる
裁きを下さねばならない」
さすがに叫びつかれたのか、枯れた声で団長は命じた。
針でつつけばはじけそうな膨らみきった顔はすでに汗だくだ
「私はここでみなの無事を祈り続けよう。全軍、突撃」
自分の安全だけは確保する命令に、マルチェロは
もはや笑うしかなかった。
神、と言うものが存在するならば。この光景を見て何を思うだろうか
人間の愚かさを悲しみ涙するのか?それとも、軽蔑し嘲笑するのか?
「隊長、前進しなくてよろしいのですか」
後ろに控えた副団長が遠慮うがち声をかけてきた。
「今日は前に出すぎるな。出来るだけ他の騎士団の陰になるように
移動しろ。」
「い、いいのですか、それで」
「かまわん、こんな茶番で命を落とすこともない」
はき捨てるように言って、マルチェロは馬の腹を蹴った。
 さえぎるものが何もない砂地を、騎士たちが城壁へと突進する。
馬蹄の音は地をも揺るがし、吹きぬけるかぜにはためくマントが
砂漠を白く染める。その間から時折きらり、きらり、と輝くのは
騎士たちが身にまとう甲冑。
壮大で、美しい。しかし愚か者たちの群れ。
「敵襲」
先頭を走っていた騎士が叫ぶ。
堅牢な城壁の一部がぱっくりと口をあけ、同じく白いマントと甲冑をまとった
騎士たちを吐き出す。
ただ、こちらの方が装備が軽く。しかもまたがっているのは駱駝だ。
馬よりも気性が荒く、乗りこなすのは難しいが、砂漠での機能性はこちらの方が
断トツだ。
ともに同じ神の名を唱えながら、両者は激突した。
風の音に、金属を叩き合わせる音と、重いものが倒れる音、そして、悲鳴が
まじる。戦場でのみ聞くことができる、死の和音
「一対一ではこちらが不利。まとまって戦うのだ!!」
マルチェロの号令のもと、マイエラ騎士団は密集体型を取り、襲いかかってくる
敵と対峙した。
これならばどこから襲われても、見逃す可能性は低い。又、負傷、疲労した騎士を
内側にいれて休ませることも出来る。唯一の欠点は高い所から矢を射掛けられたときに
的になってしまうことだが、ここは砂漠。高い場所はあの城しかない。
「盾を城の側に立てかけるのを忘れるな。余計な騎士道精神も起こさぬことだ。
敵は確実に止めをさせ」
馬一つ分集団から抜け出して、指令を下し続けるマルチェロ。
その背後から、剣を振りかぶった騎士が踊りかかった。
「兄貴!!後ろ」
叫び声に、マルチェロは振り向きつつ剣を突き出した。甲冑の胸を思いっきり
強打され、砂地に投げ出される騎士。それが立ち上がる隙も与えず、マルチェロは
剣を横に払った。飛び散る血潮。重い音を立てて首が落下する。
もう一度剣を横にはらい、血糊を振り落としながら、彼は叫び声の主を忌々しそうに見つめた。
戦場にいるには幼すぎる少年だ。銀色の髪が目にまぶしい。恐ろしく造作の整った顔の中の
青い瞳が心配そうにマルチェロを見返している。
「見習い騎士団員ククール、持ち場を離れるな」
「・・・・・でも、兄貴が危なかったから」
「次に持ち場を離れたら、団長の命令無視で懲罰の対象とする。もどれ、ククール」
硬くいてついた口調と表情に、一瞬泣きそうな顔をして、それでもククールは律儀に一礼すると
密集する騎士たちの中に消えた。その大きすぎる鎧の後姿に、マルチェロは苛立ちが募る。
やはり、連れてくるのではなかった。
「マルチェロ様、城壁です」
副団長の声が、一瞬物思いの中に沈んでいたマルチェロを現実に引き戻した。
目の前に灰色の城壁が迫っている。後ろを振り返れば。まだ他の騎士団は戦闘の渦の中だ。
30日かかって初めてここまでたどりついた。城壁を破れれば、勝機がみえる。
「城壁に沿って、城門まで移動。体制を崩すな」
マルチェロの号令を下したとたん。上から何かが重い音を立てて落ちてきた。
沸きあがる悲鳴。落馬し、のた打ち回る騎士たち。その体を覆っているものは、どろどろとした
鈍色の金属。
「くそ、鉛か」
鉛は焚き火ていどで容易にとけるほど融点の低い金属である。溶けたそれを城壁の上からぶちまければ
剣や弓矢よりよほど強力な武器になる。
「密集体系を崩せ。出来るだけ城壁から離れ、城門を目指せ。そこで再び陣形を整える」
号令が下されると同時に、騎士団は首飾りの糸が途切れるように四散した。
だが、堅牢なる城の唯一の弱点である門は、さすがに守りが堅く中々近寄ることが出来ない。
・ ・・・・もうすこし、味方が入れば・・・・・・
襲い掛かってくる剣を交わしながら、砂漠へ視線を飛ばす。そこはまだ乱戦の渦であり
マイエラ騎士団の後に続くものはいない。
・ ・・・・・ここまできたのに・・・・・
めまいがするほどの焦燥感が、マルチェロの全身を駆け巡った。と、
「いやあ、こんな所まできていたんですか。さすがマルチェロ殿」
のほほん、とした声。いつのまにか右隣に馬が並んでいる。
「・・・・貴殿は」
「エイゼルですよ。俺が一番乗りだと思ったのになあ」
相変わらずへらへらと笑いながら、ぐしゃぐしゃと砂で汚れた頭髪を、ひょろ長い指でかき回す。
ワイン瓶の変わりに血にぬれた槍が握られていることを除けば、およそ戦場にいるとは思えない
緊張感の低さだ。
「他のザヴェッラ大聖堂の騎士団員たちは?」
「まだあんなかですよ」
と、槍の先で、戦乱の渦をさす。
「俺一人が抜けちまいました。こりゃ、怒られるかねえ」
そりのこしの無精ひげをつまみながら、またのほほん、とつぶやく
そこへ、唸りを上げて剣が叩きつけられた。
「エイゼル殿!!」
マルチェロが叫ぶ。その瞬間、剣を持った騎士の動きが止まった。
否、止まらせられた、と言うべきか。あごの下から後頭部へ抜けた槍によって。
「まったく油断もすきもない」
血の雨を降らしながらびくびくと痙攣する死体を蹴飛ばして槍からはずしながら
ぼやくエイゼル。
その姿にマルチェロはあっけにとられた。あの至近距離で、剣が振り下ろされるより
先に槍で体を貫くことが出来るとは。常人の反射神経でできる芸当ではない。
どうやらこの男、単に不平を垂れ流す騎士団の落ちこぼれではないらしい
マルチェロの頭で思考が渦を巻く。この男が俺に近づいてくる理由はなんだ?
寒門出身者を快く思わない者の放った刺客、にしてはあまりの態度だが、
この男は見た目より遥かに腕が立つ。
「あーあ、ドラゴンまで出てきやがった。こりゃあ今日の作戦も失敗だな」
マルチェロの困惑顔などどこ吹く風で、エイゼルは空を見上げた。
つられてマルチェロも見上げると、巨大な影が太陽の一部をさえぎっていた。
蝙蝠のそれを巨大化したような翼の皮膜はたるみ、巨大なつめはほとんどが抜け落ちていても
その戦闘能力を侮ることが出来ない、地上最強の怪物―、ドラゴン
静かな死に場所の隣を血で汚された怒りなのか、それとも只単に戦場の空気に興奮したからなのか
よろよろと高度を下げたドラゴンは、乱戦状態の騎士たちに炎を吐いた
何百もの絶叫が響き渡る。敵も味方も戦闘どころではなく、落馬して砂地を転げ周り体に燃え移った
炎を消そうと必死だ。
その姿に満足したのか、それとももう体力がないのか、ドラゴンはまたよろよろと高度を上げると
岩山の向こうへ姿を消した。
それを見たエイゼルの顔から今まで浮かんでいた薄ら笑いが消えた。はき捨てるように
「どうせなら、きっちり殺しつくしゃいいのに」
と、つぶやく。が、マルチェロの視線に気付くとすぐにまたのほほんとした口調で
「今のうちに戻りましょうや。こうなっちゃ陣形を立て直すのは無理でしょう。」
そう言ってぶらぶらと槍を振りながら、鼻歌交じりで馬を歩かせ始めるエイゼル。
何か声をかけようと口を開きかけたとき、自分を呼ぶ騎士団員の声がした。
それに気をとられているうちに、エイゼルの姿はさっさときえてしまった。
騎士団の方は先ほどの竜の襲来も城壁に近かったせいで、炎の犠牲者はいなかったようだ
「団長、もうしわけありません。城門には近づけたのですが、この人数では破ること、
かないませんでした」
「わかっている。みな怪我がなくて何よりだ。」
くやしげに報告する副団長の肩をひとつたたいて、マルチェロは団員達に撤収をつげた
「この混乱に乗じて陣地にもどる。もう一度言うが、余計な騎士道精神を起こさぬことだ
己の命を守ることを最優先にしろ」
マルチェロの号令のもと、マイエラ修道騎士団は今日の戦いで唯一戦死者をださずに
帰還を果たした。
 だが、その直後に司令官用の天幕に呼び出されたマルチェロは、
甲冑の変わりに金糸銀糸をちりばめた豪華な服に肥満体を包んだ、サヴェッラ聖堂騎士団団長に
他の騎士団の盾として前線を突破し、城壁にたどり着いたにもかかわらず城門を突破できなかったことと
竜に襲われた仲間を助けなかったことを、嫌味多らしく長々と責められた挙句、
明日の攻撃は最前線で出撃することを命じられたのである。



夜更け。マルチェロは又城壁の見える場所に立っていた。 
足元には小さな焚き火がたかれ、押し寄せる砂漠の冷気の
ささやか過ぎる盾となっている。
「今日も夜中の散歩ですか。マルチェロ殿」
案の定後ろから声がかけられる。
「貴殿を待っていた」
「俺を?」
振り向けば、怪訝そうな顔をしたエイゼルがたっている。
羽織っているマントは相変わらず着崩れ、そして
手には昨日と同じくワインのビンがあった。
「光栄ですね、名高いマルチェロ殿にお待ちいただくとは。
飲みます?小さな焚き火よりはあったまりますぜ」
差し出されたビンにマルチェロは小さくうなずいた
「美しい杯だな」
ワインを満たした小ぶりな杯を受け取りながら
マルチェロは言った。
エイゼルが道具袋から出したものである。
つるりとした感触の黒と間違えそうなくらい深い緑色で、
陶器にしては少し重い
「玉杯ですよ。月にかざすと光るんで、夜光杯ともいいますがね
ここら辺の特産ですよ」
目の高さまで杯をもちあげて、エイゼルが答える
確かにその手の中で、杯はしっとりと光った。
二人はしばらく無言で、焚き火を挟んでワインをすすっていた。
「余裕ですね。明日最前列で敵陣突入を命じられたのに。」
エイゼルが口を開いたのは、沈黙の重さに耐え切れなかったのかも
しれない。
「そうだ、貴殿の密告のお陰でな」
あくまでも静かに淡々とマルチェロは返した
「やっぱわかってたんですか」
にやり、とエイゼルは笑う
マルチェロはうなずいた
「まともなサヴェッラ大聖堂騎士団員なら、いくら異例な出世をしたとはいえ
庶子出の騎士団団長などに近づいてはこない。いくら平団員とはいえな」
相変わらず静かに彼は言葉を継ぐ
「どうせ、次男、三男をどこでもいいから聖堂騎士団の高位に付けたい
貴族の頼みだろう。教会に多額の寄付をしているな。
俺が失脚しても誰の迷惑にもならん。貴殿の役目は俺の行動の監視と報告
そして、司令官の不満でも聞きだす。そんなところだろう。」
「あーあ、だからマルチェロ殿を嵌めるなんて無理だと言ったんですよ。
大貴族でもないのに、この若さで騎士団団長まで上り詰めた人だ。
あたまの切れが俺たちとは違うに決まってるってね。それで、怒んないんですか?」
作られたような明るさは、砂漠の夜空にむなしく散っていった。
「貴殿の言動がわざとらしすぎた。見え透いていて怒る気にもなれん。なぜ、そんな芝居をした?」
「俺も逆に聞きたいですね。俺が団長に報告したのは嘘9割
真実1割でっちあげだ。あんたは今日、うまく城壁にたどり着いたに過ぎない
いくらでも言い訳は出来たはずだ。なんで大人しく命令を受け入れたんです?」
相変わらず口元には笑みが浮かんでいたが、エイゼルの口調からはいままでの
ふざけた調子が消えていた。
「好機だとおもったからだ」
マルチェロの口調に初めて感情がこもった。それは凄まじい覇気。
「貴殿の讒言を否定するのは容易い。だがいつまでも終らぬ戦に
業を煮やすより、罰則として、自分の騎士団しか動かせないとしても
行動の自由は得た。最前列で突撃すれば何をしても
命令違反にはならん。城を落とせば文句はあるまい。そして、武勲も無視はできないだろう」
「さすがですね、と言っておきましょうか」
これが癖なのかぐしゃぐしゃと頭髪をかき回しながらエイゼルは言った。
「こんな罠にわざわざ引っかかって、逆にそれを利用するとはね。
あんたの野心には底なしだ。まあ、それに付き合わされる騎士団はかわいそうですがね
たった50人でなにができるんです?砂漠を血で染めるくらいがせいぜいですよ」
「・・・・・・妹をサヴェッラ大聖堂の高位聖職者に差し出してまで騎士団に
入団した輩にいわれたくないものだな」
エイゼルの杯を持った手がぴたりと止まった。
「貴殿と出会って1日半、経歴を調べるには十分すぎる時間だ」
「差し出したわけじゃありませんよ」
押し殺した声には、明らかな怒気がまじっていた。
「妹は好色な司祭に無理やり召し上げられたんだ。
婚約者までいたのに」
杯の中でワインが細かく震える。
「しかし貴殿は妹を取り返さなかった。妹を奪われたと言っておきながら、その妹を奪ったもの達を守る。
これほど愚かしいことはあるまい。」
マルチェロは静かに、静かに、ナイフにも等しい言葉を紡いでいく
「あんたみたいな事は、誰でも出来るわけじゃない。一人で教会に逆らって
勝てると思うのか。俺が騎士団に入ったのはせめて妹を遠くからでも守るためだ」
「それならば、もう二度と下手な陰謀に手をかさないことだ」
マルチェロは空の杯を砂の上に置くと立ち上がった
「一度目は見逃すが、二度目はない。戦場ではいかなることも
起こりうる。」
それだけいうとマルチェロはエイゼルに背を向けた
「マルチェロ殿、あんたはなんで高みを目指す。
50人の命を道連れにしてまで掴みたいものはなんなんだ」
そこに投げつけられるエイゼルの言葉。
「俺は、俺が世の中に攪として存在していると証明する。
教会の地位はその道具に過ぎん。どうせ腐りきった巨木。
倒せば喜ぶものの方が多かろう」
「明日の戦。勝算はあるのか?」
「負ける戦など最初から引き受けん。これ以上は貴殿に言う必要はない」
そういうと、マルチェロは振り返りもせず、自分の天幕の中に消え、
空の夜光杯だけが砂の上に残された。


砂で出来た地平線から巨大な太陽がゆっくりと昇ってきた。
血と砂にまみれた1日がまた始まろうとしている
「マイエラ修道院聖堂騎士団団長マルチェロ、どこにいる」
肥満体をすでに汗だくにして叫んでいる大聖堂騎士団長
だが、それに答える声はない。
他のマイエラ修道院騎士団員はすでに戦闘態勢で整列している
お互いに不安そうに顔を見合わせ、ひそひそと言葉を交わしていた。
「まったく平民でに近い団長などこれだから信用できない。
まさか怖気づいて逃げ出したわけではなかろうな」
喚き散らす団長に、銀色の髪のほっそりした騎士見習いが殴りかかりそうになり
慌てて仲間に取り押さえられる。
皆の苛立ちが頂点に立ちかけたとき
「マルチェロ団長だ!!」
との声が上がった。
昇りくる太陽のなかから出てくるように、砂丘の向こうから
真っ青な騎士団の制服に身を包んだマルチェロが馬に乗ってかけてくる。
「何をしている・・・・・」
「マイエラ修道院聖堂騎士団、これから敵陣に突入を開始する。
全員騎乗せよ」
喚き散らす大聖堂騎士団長をさえぎり、マルチェロは叫んだ。
近くでみれば、その服はところどころやぶけ、血が滲んでいた。
さらに、彼の手にした槍の先に突き刺さっているものに、
その場にいた全員の目が釘付けになる。
巨大なとかげに似ていたが、小さいが太いつめといい、口元からのぞく牙と言い
ドラゴンにちがいない。
大きさからみればまだ子ども、しかも鱗が半透明で体全体がぬれている所を見ると
生まれて間もない赤ん坊だ。
「だ、団長それは」
「囮だ。ぐずぐずするな。すぐに竜がやってくる」
マルチェロの言葉に、団員たちは慌てて騎乗する。
「城の見張りが気付くまでに、どこまで進軍できるかが勝負だ。
馬の速度を落とすな。進め!!」
青い点を先頭に、砂漠に銀色の細帯が描かれていく
昨日とは桁違いのスピードで。
駆け出していくらも行かないうちに、騎士団の背後で鼓膜を破りそうな咆哮が響いた。
砂丘の向こうから現れたのは、昨日の物よりさらに一回り巨大なドラゴンだった
相当年老いているらしく。翼の皮膜は穴すらあいていて、かつては鋭い眼光を放っていたらしい
瞳も白い膜がかかっていた。だが、鼻息荒くにおいをかぎながら、騎士団の後を正確におっていく。
「なんで竜の墓場から竜が来るんだよ。」
最後尾を走っていた騎士が、泣きそうな顔で叫ぶ。
「・・・・多分兄貴のせいだ」
隣を走っていた騎士見習いが答える。銀髪に縁取られた美しい顔も、緊張と恐怖にこわばっていた
「竜の墓場は、竜の出産所でもあると聞いたことがある。産卵した竜は砂漠の地熱を利用して
卵をかえし、年老いた竜は孵った雛のえさになるんだとか。
多分兄貴にさらわれた雛を取り返しにきたんだ。」
「・・・・・・団長、なんてことするんですか!!俺たち黒焦げになる」
「今は兄貴を信じるしかない。しゃべっている暇があるなら走れ!!」
 竜に追い立てられるように、砂漠を爆走する騎士団たち。
そのうち、前方からも矢が飛んできた。
・ ・・・・気付かれたか・・・・
串刺しにした竜を担いで馬を駆りながらマルチェロは距離を目測する
調度中間地点、といったところであろう。
戦を始めて30日、いつも決まった時間にしか突撃しないので、敵にも油断生じたようだ
・ ・・・もう少し距離を稼ぎたかったのだが・・・・・
あんなでカ物を引っ張り出したのでは、無理な話か。
マルチェロの後方で悲鳴が上がった。
矢に倒される騎士が出始めたらしい
きりり、と唇をかむ。もともと少ない人数での突撃だ
出来る限り死傷者はだしたくない。
あの司令官のことだ、自分の騎士団を動かすことはせず高みの見物を決め込んでいるに
ちがいない。
「犬死だけは、してたまるか」
自分を鼓舞するようにつぶやく。
「思い切ったことをするもんですね。さすがマルチェロ殿」
だから、のほほんとした声が聞えたときも最初は空耳かと思った。
「マルチェロ殿~~聞えてますか~」
3度ほど呼びかけられてようやく声のしたほうを見ると、そこには
長い髪をなびかせたエイゼルが馬を並べていた。
「貴殿、なぜここに!!」
「いやだなあ。ドラゴンまでひっぱりだして、朋友が知らん顔できるわけないじゃないですか」
相変わらずへらへらと笑いながら言う。緊張感のカケラもない。
「サヴェッラ大聖堂騎士団、全員とは言いませんが80名。ともに突撃いたします」
「貴殿の団長はどうした」
「あの体格に砂漠の暑さが応えたのか、急にひっくり返りました。多分戦が終るまで
おきないでしょう」
その言葉にマルチェロはくっと笑った。
本心か、新たなワナか。だがどちらにせよ人数が増えたことはありがたい
降り注ぐ矢の雨を潜り抜け、走り、走り、銀色の甲冑を着た騎士が固める
城門がやっと見えた。
マルチェロは馬の手綱を思いっきり引いた。
走り続けて乱れた呼吸を短時間で建て直し
投槍の姿勢をとる。そこに、襲い掛かる複数の騎士
「マルチェロ殿、早く!!」
いつのまに構えたのか槍を一閃させて、エイゼルが叫んだ。
赤いしぶきが飛び散り、うめき声を上げて騎士たちが落馬する
マルチェロはうなずくと、馬上で思い切り上半身を引くと
串刺しになった竜を城門へと投げつけた。
唸りを上げて宙を飛んだそれは、鈍い音をたてて城壁へつきささる
と、頭上でもう一度咆哮が響いた。
それは見えぬ目で、においだけを頼りに必死に雛を追ってきた竜が
ようやく止まった雛めがけて突進する掛け声。
数十人の騎士をも巻き込んで、灰色の巨体が城壁に激突した。
揺らぐ城壁、響き渡る悲鳴。そして、凄まじい地響きと砂埃とともに
城壁は粉々に砕けた。
「団員に告ぐ!!」
マルチェロの後を追ってきた騎士たちに、マルチェロは叫んだ
「見ての通り城門は砕けた。突撃せよ!!」
上がる歓声。マルチェロの脇を団員たちが駆け抜けていく
その後を、白いマントを金の留め金でとめた騎士たちが続く
「罠ではなかったのか」
鋭い瞳でエイゼルを見るマルチェロに、茶色の髪の青年は
「いやだなあ。信じてくださいよ」
とへらへらと笑った後、すっと真顔になった
「己のためとはいえ、腐った巨木を倒そうとする人間に賭けてみたくなった。
それだけです」
「・・・・・エイゼル殿」
「あんたがどんな教会を作るかは知らないが、少なくとも権力を傘にきて
嫌がる女性を無理やり妾にするような人間が上に立つような組織をつくる
ことだけはしない、と信じている」
「それは、これから俺についてくればわかること。とりあえずこの城を落とすことだ。」
「はいはい、ではいくとしますか」
騎士団から一歩送れて、マルチェロとエイゼルは城の中へと飛び込んだ

5
城に立てこもったものたちの抵抗は思ったよりも強かった。
「案外しぶといですな、こりゃ」
血塗られた剣の柄で汗をぬぐいながらエイゼルがつぶやく
「司令官を捕らえることだ。そうすれば一気に片がつく」
同じく血にぬれた剣を握ったマルチェロがかえす。
二人は城に入ったときからずっと行動をともにしていた
あちらこちらで騎士たちが戦っている。
今の所は五分五分だが、これ以上戦いが長引けば
どうなるかわからない
「塔に向かう」
と言ってマルチェロが駆け出す。後に続くエイゼル。
このような場所の場合、一番高い塔の上に司令官がいるものと相場が決まっている
「マルチェロ殿、ここからいけそうです」
そこは、礼拝堂の中の小さな扉だった
人一人やっと通れる位の狭い階段が上へ上へと続いている
二人は顔を見合わせ、無言でうなずいた。
先にマルチェロが足を踏み入れ、続いてエイゼルが足を踏み出したとき、
10人ほどの騎士が、礼拝堂に流れ込んできた。
「いけ!!マルチェロ殿、ココは俺が食い止める」
階段を駆け下りようとしたマルチェロに、エイゼルは叫んだ。
その体に鈍い音を立てて矢が突き刺さる。
「エイゼル殿!!」
「急所は外れている、心配無用!!」
矢を引き抜きながら、エイゼルは背負っていた槍を振り回した
迫ってきた騎士たちが一瞬たじろぐ
「しかし」
なおも戻ろうとしたマルチェロ。
「俺と一緒にきた80名は皆貧しい貴族の子弟。口減らしのために
騎士になったようなやつらばかりです。皆、あんたに賭けてるんだ。
あんたは勝たなくちゃだめだ。行け、行ってくれ。俺たちのために」
エイゼルの言葉が、降りかけた足を止めた。
「すぐにもどる」
その言葉だけを残してマルチェロは背を向けた。
そして駆け上る、上へ、上へ。
下から聞えてくる絶叫と剣を打ち合わせる音、
それに追い立てられるように上へ、上へ。
マルチェロは駆け上った。
 最上階にいたのはやはり司令官。
兄弟を殺し、騎士団を盾に修道院に立てこもった男は
飛び込んできた血まみれの青年に、尊大な態度で
降伏と引き換えに、身の安全と温情ある待遇を要求した
「今ココで殺された方が、お前にとって幸せだろう。
地獄で部下たちにわびるがいい」
氷のような口調で申し出を一蹴すると、マルチェロは手にした剣を
横になぎ払った。
それは男の首を床に落とし、飛び散る赤い液体は狭いが豪奢な部屋を
まだらに染め上げた。
「・・・・・・終ったか・・・・・」
急激な疲れが襲ってくる。
砕けそうになる膝を剣で支え、マルチェロは部屋の窓を開けた
下を見ればまだ戦闘は続いている。
服の下に隠してきたマイエラ修道院聖堂騎士団の旗を剣に括りつけ
マルチェロは思いっきり振り回した。
それは、この城が落ちた証し。
旗に気付いた騎士たちは、あるものは勝ち鬨をあげ、あるものはがっくりと膝をつく
一月続いた戦闘は今ココに終りを告げたのだ。

壁に寄りかかりながらマルチェロはゆっくりと階段を下りる
本当はもっと早く降りたいのだが、体が言うことを聞いてくれない。
登ったときの倍の時間をかけて礼拝堂までたどり着き、そこで
扉によりかかるように倒れているエイゼルを発見した。
「エイゼル殿!!」
抱き起こし、ゆすってみても、長身の体はゆらゆらと揺れるだけだ。
その体には何本もの矢が突き刺さり、流れ出た血は地面を泥土に変えていた。
マルチェロは目を閉じ、黙ってエイゼルのあたまをかき抱いた。
激痛と死の恐怖の中、それでもこの青年は一歩もその場を動かなかったのだ。
「・・・・・これは」
エイゼルの体に刺さった矢を抜こうと手をかけたとき、マルチェロはそれがここに立てこもった
兵士が使っているものとは微妙に違うことに気がついた。しかし、これは見覚えがあるものだ。
「お手柄ですな。マルチェロ殿」
丁寧ではあるがあざけりを含んだ声が後ろからかかった。
ゆっくりと振り向くと、そこにいたのはあたままでしっかりと覆う甲冑を着けた3人の騎士。
聖職者の証しである白いマントをとめる金の金具が日の光に輝いている。
一人が無言で矢を番えた。
「・・・・・・そういうことか」
マルチェロは静かにエイゼルを地面に横たえた。
「戦場では団長とはいえ戦死なさることがあるものです」
嘲笑を含んだ口調でしゃべる騎士のあごを長槍がつらぬいた。
地面に落ちていたエイゼルのそれを、マルチェロが電光の速さで突き上げたのだ。
あまりにもすばやい攻撃に動揺した残り二人の騎士も、叫ぶ間もなくマルチェロの剣の餌食になった。
物言わなくなった3対の騎士に侮蔑の視線を投げかけ、マルチェロは再びエイゼルのそばにひざまづいた。
「貴殿の最後を穢れた血でそめる無礼を許してくれ」
丁寧に矢を抜き取りながらマルチェロはつぶやく。
「弔いの言葉など、貴殿は耳をふさぎたいだけだろう。だから天国とやらで見ていてくれ。
俺のこれからの行動すべてが貴殿への弔いだ」
墓を掘る時間はない。なきがらも持ち帰ることはかなわない。
髪の毛を人房、そしてなぜかポケットに入っていた夜光杯を2つ。
それだけを懐に収め、マルチェロはその場を後にした。
残された青年の亡骸の上を熱風がわたり、砂がぱらぱらと降り積もる
すべてが砂に覆われてしまうまで、そう時間はかかるまい。


エピローグ

「これを私に?」
「そうです、遅くなって申し訳ありません」
薄茶色の髪の毛と、夜光杯を手渡された女性はそれを大切そうに胸におしいだいた。
「5年間、いつか兄がひょっこり帰ってくるのではないかと願ってました。あのような性格のあにですから」
修道女としてサヴェッラ大聖堂の奥深くでくらしながら、実は高位の聖職者の愛人だったという
その女性は、聖職者が失脚したことにより、はじめて大聖堂からでることができたという
「兄君は騎士として立派な最期を遂げられました」
年の割には高位すぎる聖者の衣装に身を包んだ黒い髪の青年はそう言って深い緑色の瞳を伏せた
「ありがとうございます」
女性はそう言って深々とあたまを下げる
「リュウ殿、これからどうなさるのですか?もし市井でくらされるなら、家などを用意しますが」
この問いに、リュウは黙って首を振った。
「私はこれから兄を偲び、一生を神に仕えるつもりです。幸い引き受けていただく修道院も決まっています」
マルチェロは黙ってうなずいた。それが彼女の決めた道なら異を唱える資格はない。
「・・・・・・・礼を言います、マルチェロ殿」
部屋を出て行くリュウを見送るマルチェロの耳元に、ささやき声が聞えた・・・・気がした。
「思ったより時間がかかった。許せ」
手の中で光る杯を転がしながらマルチェロはつぶやく。リュウにかえしたのは一つだけだ。
・・・・・いえいえ、でもそろそろ足を止めちゃいかがです?もう十分上に上がったでしょう。
「まだだ。俺の悪い癖でな。今更とめられん。血塗られた道は最後まで駆け抜けるさ」
小さな音が響いた。手から滑り落ちた夜光杯は大理石の床で粉々に砕ける。
「・・・・・貴殿は反対のようだが、もう遅いのだ」
そうつぶやいてマルチェロは窓の下を見る。
そこは砂漠。ココは聖地。
あした、ここでは史上最年少の法王の即位式が行われる
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2016/06/19
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://20050522.blog24.fc2.com/tb.php/5-c31dad07
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。